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- 特許事例
インフルエンザウイルス抗原検出試薬発明事件
大阪地裁知財部(被告)・知財高裁(被控訴人)・最高裁(被上告人)
(争点)権利濫用・進歩性(29条2項)・想到容易・公知技術・周知技術
- 特許権侵害差止等請求事件(大阪地方裁・平成17年(ヮ)第3155号事件・平成18年 4月13日) 判決
- 同控訴審事件(知財高裁・平成18年(ネ)第10054号事件・平成19年3月29日)判決
- 同上告審事件(最高裁・平成19年(受)第1279号事件・平成19年9月25日)決定
- いわゆる「組合わせ発明」における
- 特許法第29条2項の適用
- 特許法第104条の3の適用例
- いわゆる「一時不再議」における
- 特許法第167条の非適用
- 1987年にオランダのユニリ-バー・ナームノーゼ・ベンオートシャープ(後スイスのインバーネス・メデイカル・スイツツアーランド・ゲゼルシャフト・ ミット・ベシュレンクテル・ハフツング)に移転)よりイギリスで出願 されて以来、世界の検定法市場(最近ではインフルエンザ検定)を支配してきた検定法 特許が無効とされるべきとの判決が大阪地方裁判所特許部で出されました。
同判断は、知的財産高等裁判所でも、支持されました。 - 原判決の特異性は、特許法29条2項のいわゆる進歩性の判断を、いわゆる当業者の基準ですべ きという構成要件(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)を積極的に用いたことにあります。
- かっては、同要件は実務上軽視されていたように思われました。すなわち、当該発明の進歩性の判断においては、公知文献の記載の有無という形式的事実が重視され、その記載内容からの創意工夫のレベルは重視されなかった傾向にありました。特に特許庁の判断やこれを尊重する先例に多く見られました。
本件特許においても、国内における特許異議事件や無効審判そしてレンネ(フランス)大審院判決や英国特許裁判所判決等で、悉く本件特許の有効性が認められてきました。
- いずれも、組み合わせの特許である本件特許発明の構成は、各構成要件部分は公知文献に記載されているが、組み合わせた構成そのものは記載がないというのが、理由の骨子に認められます。
- 原判決では、特に専門家であれば容易に想到できるものであること、容易に想到できなかったという創意工夫の経路が記載されていない等の理由で、進歩性がないという判断がなされています。
控訴審においては、更に、当時の技術分野における当業者の知識が争点に加わり、具体的積極的に当該技術分野の知識基準が判断されています。
- この解釈傾向は、法改正により、特許法第104条の3が設置され、知的財産高等裁判所が設置されたことにより、法第29条2項の解釈が、特許庁の判断にとらわれずに、より実質的かつより法解釈論的になされ るようになった結果だと判断されます。
従来、特許庁で有効とされた事件はともすれば高等裁判所で無効とされることが少なくなかった傾向にありましたが、最近では、裁判所の流れを受けて、特許庁においても法的解釈に基づいた判断がなされて、これが知的財産高等裁判所で覆されることがほとんどなくなりました。時折見られる転覆例は、やはり特許庁で有効とされたものが知的財産高等裁判所で無効とされるというパターンに限られるようです。
- 上記各判決に先立って、同一特許の欧州出願特許について、ドイツ連邦特許裁判所(控訴審)にお いても本件各判決と同様の内容の判決が出されていますが、英国や仏国の有効とされた判断に比べて、より多くの証拠に基づいた緻密な論証がなされています。
- 原判決の全文は平成17年 (ワ) 3155号 特許権侵害差止請求事件|特許判例データベースで見ることができます。
控訴審判決の全文は平成18年 (ネ) 10054号 特許権侵害差止請求控訴事件|特許判例データベースで見ることができます。
- 特許庁無効審判事件においても、同様の審決が出され、控訴審にあたる知的財産高等裁判所でもこの結果が支持されました(平成18年(行ケ)第10380号事件、同第10447号事件)。このなかでは、審判手続きのなかで審理判断されなかった証拠の審決取消訴訟での取り扱いについても争点とされましたが、判決では最高裁判所の判断基準を引用されて、公知事実との対比には使えないが、当時の当業者の技術常識を認定するためには使える、ことが判示されています。
- なお、本件は特許侵害・審判事件のなかでも難度が高い(専門度が高い)ケミカル(薬品ー化学)の分野であるという特異性があります。
- 本件は、最高裁判の上告不受理決定が出され、確定しました。
- 本件は、別当事者の事件で、日本国で有効と審判され、イギリスやフランスの裁判所で有効と判決されていたものを覆した(大逆転)ものとして、大きな意義があります。